白い僧院の殺人
ストーリー;レトロ・ハリウッド 舞台はロンドンから少し離れた、恐ろしく静かな邸宅である。ここに、ロンドンの批評家たちに宣戦布告のように自分の主演舞台を企画して帰国した女優が泊まることになる。 彼女は美貌の持主だが身勝手で勝ち誇っていて、とりまきの男たちを完全に従えていた。 事件は警告から始まり、彼女は別館で撲殺死体で発見された。 事件の関係者と交友関係にあった甥のため、わざと仏頂面で助けにくるH・M. ◆「彼女は女が望むものをすべて手に入れました。そして、一人ではなやかに生き、老いぼれないうちに死んだのです。そんな人を、殺してやりたいと思わない者がいるでしょうか?」 ◆感想;人間関係がモノを カーにしては怪奇でもなく古い歴史も殆ど関係がない。事件は雪の密室で、毒婦でもある美人があっけなく殺害されている。仮説がどんどん覆るけれども、推理の重点は心理に置かれている。そのため、そこそこ厚い(350ページほど)のに、周辺描写よりも人物のやりとりが重要になる。心理で解明するやり方はクリスティでもっと濃いのが読めそうではあるが…。 ◆トリックについて:一筋の足跡のみ 被害者が殺され犯人が別館を出たなら足跡がつくはずなのだが、一面の雪に残っているのは発見者の足跡だけだった。 一緒に舞台をやろうという仲間が、次々と名指しで互いに犯人だと主張する。動機は全員にある。このやりとりのせいで読んでいて大分煙に巻かれた。 以下ネタバレ注意 ◆逆転の推理である。 雪の密室は、いわば犯人の計算の外で作られた。凶器はちょっと思いつかないところにある。雪が降ったあとで別館に向かった足跡は、やはり一番の手がかり。筋が通るように考えれば人間関係の謎も全て見えてくる。 被害者には殺されてもしかたがない部分が多かった。だがこの犯人は卑屈すぎる。そして真相を知られたという理由だけで、再度殺人を犯すほど身勝手である。 トリックが見事なのかどうかはよく分からない(ぉぃ)が、一番の謎である足跡の理由が明らかになるとき、明け方の雪の中を歩く姿が見えてくるようで印象的だった。 この作品でメリヴェル卿のことが結構好きになった。 2002/Nov.――創元推理文庫 |