赤後家の殺人 


THE RED WIDOW MURDERS


1935


ストーリー;
ロンドンに残る、フランス革命時の首切り役人の末裔の邸。そこには、そこで一人で眠れば必ず毒死するという、開かずの間があった。
しかしその邸の主人は実験でその部屋に誰かが入ることにしようという。
緊張の中、当りのカードを引いたのは邸に出入りしている芸術家。しかし、何事も無く返事をしていたはずの彼は、密室の中で毒死していた。
フランス革命当時の記録が生き生きと甦り、トリックに絡んでいく。探偵役はマイペースなヘンリー・メリヴェル卿。

◆「たしかにこれは、呪文か祈祷の文句ですね。《この男から苦痛をはらいたまえ》という意味でしょうね。もっとも《dolor》には《苦痛》だけでなく、《悲哀》という意味もありますが、・・・」

◆感想;毒と流血の一族
始まり方が刺激的。こういう時刻にここらを歩いているようにいわれ、そうしていると声をかけられる。そこで開かずの間に入る者を決めるカード選びの立会人にさせられるのだ。
赤後家の間の秘密は完全に首切り役ならではの一家の歴史に関係している。
ホストである兄も魔術狂いの弟もかなりの変人で、ほかにも濃い人物ばかり出てくる。
革命のときパリにいた一家の先祖について長い物語が述べられるが、これだけでも内容が濃くて興味深かった。


◆トリックについて:毒はどこからはいったか
内服で殺害できる毒と、キズからしか致命傷にならない毒がある。この事件の毒は土人のナイフから採取された後者。しかるに、凶器はどこにも残っていない。
そしてもっとも怪しかった人物が同じ場所で撲殺される。被害者が死亡したあとにかわりに返事をした人物は誰か。嘘を証言している人物も、正体を偽っている人物もいる。謎の背後には欲ばかりが蠢いている。