『 ハロウィーン・パーティ』

アガサ・クリスティ(1969)

Story:
ある町で、10代の少女が中心のパーティが催された。場所は個人の家であり、何人かの大人が世話を焼いて段取りをしてやっていた。その最中に一人の少女が殺されてしまう。それも、その家の図書室で、ゲームに使った、リンゴと水の入ったバケツに頭を突っ込まされ、溺死したのである。

その場に居合わせた女流ミステリ作家アリアドニ・オリヴァは、単なる変質者の行きずりの犯行ではないと直感し、友人であるポワロに真相を探ってくれるように依頼する。

殺された13歳のジョイスは、町でも有名なうそつきだった。パーティ準備中にも「人殺しを見た」と言い張るが、それはミステリ作家がそこにいたので気を引きたいために口からでまかせを言ったのだと、誰でも思っていて、全く本気にしなかった。

しかし、ジョイスが語った殺人は事実で、犯人はジョイスのその発言を本気にして、迅速に行動に移った。つまり、口封じにジョイスを殺したのだった

■ヘイスティングスは登場しない本作、代わりというほど頻繁に助手を勤めはしませんが、アリアドニ・オリヴァがポワロの相棒となり、いい味を出しています。ポワロがかなり老人になっていて、お洒落なのは相変わらずですが、田舎を歩き回るのにエナメルの靴でそして足を痛めてしまうとは、常に用意周到完全無欠なポワロらしくない、大げさにいえば老いぼれた痛ましさを感じたりしました。
一方で、何でもポワロの言いなりで、鈍すぎるところもあるヘイスティングスに比べると、ミセス・オリヴァはせっかちながら切れる人です。設定の女流ミステリ作家というのは、作者の投影と考えていいようです。

その彼女の名前がアリアドニというのは、この作品ではっきりしたヒントを出しています。
ちょっとはっきり出しすぎじゃないかと思います。
それから、犯人は途中でわかりました。からくり全部はその時点では分からなかったけど、手がかりがほぼ対話でできていて、沢山の対話を読んでいると、そこだけ異質の部分が浮かび上がるわけです。それにしても、あの解決に向かうまでの伏線の多さはやはりすごいです。みんな怪しく見えるし。
かつて石切り場だったところを大富豪の未亡人がすばらしい庭園に造り替えたという場所で、ポワロは一人の少女と出会います。その子は見た目も森の精のようですが、パーティ当日は具合が悪くて欠席していました。

ジョイスは何も見ていない、見たのは欠席したその友達だったのです。
その少女ミランダが、どこかへ出かけてしまうクライマックス。ポワロはミセス・オリヴァにミランダの保護を頼みましたが、ミランダは律儀にも、これから町を出ることを犯人に告げに行くのです。

「あなたは美を求めている」とエルキュール・ポワロは言った。「いかなる犠牲をはらってでも、美を。わたしとしては、求めているのは事実です。つねに、事実です」

舞台設定がとても美しくて、そこでの犯罪の残虐性がより際立っています。

(早川・クリスティー文庫31)
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